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長期収載品の選定療養の対象医薬品を「薬の検索」から確認できます。

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新制度「長期収載品の選定療養」

2024年10月から、「長期収載品の選定療養」という新たな制度が導入されます。この制度は、後発医薬品(ジェネリック医薬品)が存在する中で、患者が長期収載品(先発医薬品)を希望する場合に、通常の一部負担金に加え、その価格差の一部を自己負担することを求めるものです。具体的には、先発医薬品と後発医薬品のうち最も価格が高いものとの差額の4分の1相当の料金を患者が追加で自己負担することになります。

「選定療養」とは

「選定療養」という言葉は、2006年に導入された医療制度改革の一環として登場しました。この制度は、患者が特別な医療サービスを希望する場合に、追加料金を支払うことでそのサービスを受けられる仕組みです。選定療養の例としては、個室の病室の利用や特定の医師による診察などが挙げられます。この制度は、患者が自身のニーズに応じた医療サービスを選択できるようにするためのもので、医療の質と選択肢の向上を目指しています。

制度の背景と目的

長期収載品の選定療養が導入される背景には、医療費の抑制と後発医薬品の普及促進があります。日本の医療費は年々増加しており、特に薬剤費が大きな負担となっています。後発医薬品は先発医薬品と同じ有効成分を持ち、薬価が低いため、後発医薬品の使用を促進することが医療費の削減に寄与します。このため、先発医薬品を希望する患者には追加の自己負担を求めることで、より多くの患者に後発医薬品を選択してもらうよう促すことが目的です。

対象となる医薬品

「長期収載品の選定療養」の対象医薬品のリストは厚生労働省のホームページにて公開されています。2024年10月の制度開始以降、本制度の対象となる医薬品の扱いは、状況によって以下のように分かれます。

1. 医療上必要があると認められる場合

医師が「医療上必要である」と判断した場合で、次の①~④の場合が想定されています。

①先発医薬品と後発医薬品で承認された効能・効果に差異がある場合であって、その患者の疾病の治療のために必要な場合

②その患者が後発医薬品を使用した際に副作用があったり、先発医薬品との間で治療効果に差異があったと判断される場合

③学会が作成しているガイドラインにおいて後発医薬品に切り替えないことが推奨されている場合

④後発医薬品の剤形では飲みにくい、吸湿性により一包化できないなどの場合

このような場合には、先発医薬品を調剤した場合であっても患者がそのために特別な料金を自己負担することはなく、通常の保険適用が行われます。
また、流通の問題などにより薬局における後発医薬品の在庫が不足している場合など、供給上の問題で後発医薬品の提供が困難である場合も同様に通常の保険適用となります。

2. 患者希望の場合

患者が自らの希望で長期収載品を選択する場合に適用されます。例えば、過去の使用経験や好みなど個人的な理由から、後発医薬品よりも先発医薬品を使いたいと患者が希望する場合が該当します。この場合、患者は先発医薬品と後発医薬品の価格差の4分の1相当の料金を自己負担することになります。

具体的な例

鎮痛や抗炎症、解熱に用いられるロキソプロフェンナトリウム水和物細粒の先発医薬品「ロキソニン細粒10%」の場合、官報告示されている規格(10%1g)あたりの薬価は15.5円です。一方、「ロキソニン細粒10%」の後発医薬品のうち、最高薬価は14.3円です。

「ロキソニン細粒10%」は厚生労働省が公表している長期収載品の選定療養の対象医薬品リストに含まれていますので、医師が「医療上必要である」と判断した場合や、流通上の問題等で後発医薬品の在庫が不足している場合等を除き、患者が先発医薬品を選択する場合、価格差の1.2円の4分の1にあたる0.3円に消費税相当を加算した金額を自己負担する必要が生じることになります。

ただし実際には医薬品の一度の処方量も保険診療上の患者負担の割合も患者ごとに異なるため、患者の自己負担額の変動については医療機関や薬局からの丁寧な説明が求められます。

長期収載品の選定療養の対象医薬品は、当サイトの「医療用医薬品検索」と「医療用医薬品比較」でも確認可能ですので、ご参照ください。

→ データインデックスが提供する医薬品データベースの詳細はこちら

保険診療上の注意点

医療機関や薬局が保険診療の費用を請求する際には、診療報酬明細書(レセプト)を電算処理システムで処理するために「レセプト電算コード」(レセ電コード)が用いられます。「長期収載品の選定療養」に該当する場合は、従来とは異なる特別なレセ電算コードが使用されます。これまでは特定の医薬品に紐づく価格情報の値は1種類でしたが、新制度下では従来の価格情報を持つコードに加え、「長期収載品の選定療養」に対応した価格情報を持つコードが加わります。

誤ったコードを使用すると、請求や保険給付の処理に不備が生じる可能性があるため、医療機関や薬局では、これらのコードの適切な管理と正確な処理が求められます。

まとめ

「長期収載品の選定療養」が実施されることにより、先発医薬品を希望する患者にとっては経済的な負担が増える可能性がありますが、患者本人にとって信頼性の高い薬を選ぶ自由が保障されるため、医療費の効率化と患者の選択の自由を両立させるための制度と言えます。自身の健康状態に合わせた最適な薬を選択するために、医師や薬剤師とよく相談し、情報を集めることが重要です。

医療従事者は、患者に対して適切な情報提供と相談を行い、最適な治療法を選択するサポートを行うこと、また保険請求等の手続きの変更点を適切にアップデートし、正確に請求処理を行うことが求められます。

―参考資料―
厚生労働省 後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39830.html