2023年8月30日に、インフルエンザ菌b型に対する感染予防ワクチン「アクトヒブ」が薬価基準に収載されました。この記事では、アクトヒブの効く仕組みと、その収載の背景について解説します。
ヒブワクチンとは
ヒブは、ヘモフィルス インフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b、通称Hib)と呼ばれる細菌です。この細菌は、特に5歳未満の小児において髄膜炎、肺炎、関節炎などの重篤な感染症(Hib感染症)を引き起こす可能性があります。なお、名称に「インフルエンザ」を含みますが、いわゆる「インフルエンザウイルス」とは全く異なるものです。
WHO(世界保健機関)はヒブワクチンの定期接種を推奨しており、日本でも2011年に公費助成が開始され、2013年からは定期接種が行われています。
アクトヒブの効く仕組み
アクトヒブの一般名は「乾燥ヘモフィルスb型ワクチン(破傷風トキソイド結合体)」で、Hib細菌の莢膜と呼ばれるカプセルから抽出された成分を主成分としています。細菌において莢膜はその防御機構として機能していますが、ワクチンとしてこの成分を接種することで、体はこの成分を外敵として認識し、対応する抗体を産生します。この過程でその情報が免疫細胞に記憶され、次にHib細菌の感染が発生した際には免疫細胞が迅速に反応して感染の進行や病状の悪化を効果的に防ぐのです。
薬価収載の背景
このアクトヒブが2023年になって薬価収載された背景には、別の医薬品「エムパベリ皮下注1080mg」が関与しています。エムパベリ皮下注は、発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療薬として、2023年3月に製造販売の承認を受け、2023年8月30日に薬価基準に収載されました。エムパベリ皮下注はその使用により特定の細菌による感染症のリスクを高める可能性があるため、投与に際しワクチン接種歴を確認することや、未接種又は追加接種の必要な場合には接種すること等の指示が添付文書に明記されており、その中に「インフルエンザ菌b型に対するワクチン」の記載もあります。すなわち、エムパベリ皮下注の投与を予定する患者には、事前にアクトヒブなどの接種の必要が生じる場合があるのです。
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しかし、薬価基準に収載されていない医薬品と薬価基準に収載されている医薬品を同時に使用した場合、日本の健康保険制度下での「混合診療」に該当してしまいます。混合診療とは健康保険の適用される医療行為と自費診療が同時に行われることを指しますが、保険給付の観点から混合診療は(先進医療などの例外を除き)原則として禁止されており、これに該当した場合にはその全体が自由診療として扱われます。すなわち、患者が健康保険の給付を受けられなくなる(全額自己負担になる)リスクが伴います。
この問題を回避するために、アクトヒブが薬価収載され、特定の患者群においての健康保険診療で使用が可能となったのです。また、アクトヒブは以前は5歳未満の子供のみが対象でしたが、2023年6月1日に対象年齢が拡大され、成人も含めて全年齢での接種が可能となっています。
2023年のアクトヒブの収載は、医薬品の薬価収載の過程において、他の医薬品や健康保険制度との関係が考慮されることを示す一例であると言えるでしょう。
―参考資料―
アクトヒブ 添付文書(2023年8月改訂:第3版)
エムパベリ皮下注1080mg 添付文書(2023年9月改訂:第3版)