今回は、毎年流行するインフルエンザ感染症を話題として採り上げ、インフルエンザの診断や薬の効く仕組みについて説明します。
インフルエンザとは
毎年、冬が近づくとインフルエンザの流行が話題になります。インフルエンザの症状は風邪によく似ているため、風邪と何が違うの?と疑問に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
風邪は、ある種のウイルスや細菌が鼻やのどに付着して発症する様々な症状(のどの痛み、鼻汁、咳、熱など)をひとくくりに「風邪」と呼んでいます。一方、インフルエンザは「インフルエンザウイルス」というウイルスに感染することによって起こる病気です。風邪に比べ重症化しやすく、高熱(38℃以上)、頭痛、関節痛、筋肉痛などの全身症状が現れます。また、小児ではまれに急性脳症を起こすことがあり、高齢者など免疫力が低下している人の場合は肺炎を起こすことがあるため、注意が必要です。
インフルエンザの種類
近年、新型インフルエンザや鳥インフルエンザという言葉を耳にします。これらは毎年流行するインフルエンザ(季節性インフルエンザ)と何が違うのでしょうか?
インフルエンザウイルスはその構造からA型、B型、C型の3種類に分類されていますが、構造の一部が変化し、人が免疫を保持していないインフルエンザウイルスが出現することがあります。これを新型インフルエンザと呼んでいます。
また、鳥インフルエンザは2013年に中国で多くの感染者が報告され、「鳥から人」だけでなく「人から人」への感染も疑われたとのことで、今後も注意が必要とされています。
季節性インフルエンザは毎年流行を繰り返すため、だんだんと人に免疫がついてきますが、新型インフルエンザや鳥インフルエンザは人が免疫を保持していないため、急速に全国に広がり健康や命に重大な影響を与えるおそれがあります。
これらの理由から、インフルエンザは「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」で健康に大きな影響がある感染症のひとつに定められ、特に新型インフルエンザや鳥インフルエンザについては、感染の拡大を防止するための様々な対応が国際的な連携のもとに進められています。
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(2014年9月現在)
インフルエンザの種類 | 法律における分類 |
鳥インフルエンザ(H5N1) | 二類感染症 |
鳥インフルエンザ(H5N1以外) | 四類感染症 |
インフルエンザ(鳥インフルエンザ、新型インフルエンザ以外) | 五類感染症 |
新型インフルエンザ | 独立した分類 |
法律における分類(2014年9月現在)
分類 | 定義(該当する感染症 |
一類感染症 | エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱 |
二類感染症 | 急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(コロナウイルス属SARSコロナウイルスのみ)、鳥インフルエンザ(インフルエンザウイルスA属インフルエンザAウイルスで血清亜型がH5N1のみ) |
三類感染症 | コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス |
四類感染症 | E型肝炎、A型肝炎、黄熱、Q熱、狂犬病、炭疽、鳥インフルエンザ(鳥インフルエンザ(H5N1)以外)、ボツリヌス症、マラリア、野兎病 上記に掲げるもののほか、既に知られている感染性の疾病であって、動物又はその死体、飲食物、衣類、寝具その他の物件を介して人に感染し、上記に掲げるものと同程度に国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるもの |
五類感染症 | インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症以外)、ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎以外)、クリプトスポリジウム症、後天性免疫不全症候群、性器クラミジア感染症、梅毒、麻しん、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症 上記に掲げるもののほか、既に知られている感染性の疾病(四類感染症以外)であって、上記に掲げるものと同程度に国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして厚生労働省令で定めるもの |
新型インフルエンザ等感染症 | 新型インフルエンザ:新たに人から人に伝染する能力を有することとなったウイルスを病原体とするインフルエンザであって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの 再興型インフルエンザ:かつて世界的規模で流行したインフルエンザであってその後流行することなく長期間が経過しているものとして厚生労働大臣が定めるものが再興したものであって、一般に現在の国民の大部分が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの |
指定感染症 | 既に知られている感染性の疾病(一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症以外)であって、この法律の第3章から第7章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるもの |
新感染症 | 人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので、当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの |
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インフルエンザの診断
それでは、インフルエンザはどのように見分けるのでしょうか?
インフルエンザは、風邪のような症状とともに、高熱(38℃以上)、頭痛、関節痛、筋肉痛などの全身症状が出るのが特徴です。このような症状がある時は早めに病院を受診しましょう。
病院では「迅速診断キット」を用いたインフルエンザの診断が普及しており、インフルエンザかどうかを簡単に診断することができます(鼻などの粘膜を綿棒でこすり、綿棒についたウイルスの有無を調べることで、約10~15分で結果が出ます)。しかし、感染の初期はウイルス量が少なく、インフルエンザであるにもかかわらず検査結果が陰性になることがあるので注意が必要です。
インフルエンザの治療
インフルエンザの治療には、熱や鼻汁などの症状を抑えるための対症療法と、インフルエンザウイルスに直接作用する抗インフルエンザウイルス薬を用いた治療があります。ここでは、抗インフルエンザウイルス薬について説明します。
いろいろな抗インフルエンザウイルス薬
近年、抗インフルエンザウイルス薬が治療に使用されるようになり、その種類も増えてきました。
抗インフルエンザウイルス薬は内服薬の他に吸入薬や注射薬などもありますが、いずれも市販薬ではないため、医師に処方してもらう必要があります。
抗インフルエンザウイルス薬の種類 |
■ノイラミニダーゼ阻害薬 ・オセルタミビルリン酸塩(タミフル:内服薬) ・ザナミビル水和物(リレンザ:吸入薬) ・ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(イナビル:吸入薬) ・ペラミビル水和物(ラピアクタ:注射薬) ■M2蛋白機能阻害薬 ・アマンタジン塩酸塩(シンメトレルなど:内服薬) ■RNAポリメラーゼ阻害薬 ・ファビピラビル(アビガン:内服薬) ※ アビガンは発売前の薬です。 |
カッコ()内は商品名
抗インフルエンザウイルス薬の効く仕組み
ここからは、”体の中に入ったウイルスに対して薬がどのように効くのか?” 少し詳しく説明します。
- インフルエンザウイルスが鼻やのどの粘膜に吸着して、人の細胞の中へ侵入します。
- ウイルスは、侵入後に自身の膜をやぶり細胞の中に遺伝情報(RNA)を放出します。これを「脱殻」といい、「M2蛋白機能阻害薬」はこの脱殻を阻止します(注)。
- (注)M2蛋白機能阻害薬が効果を示すのはインフルエンザウイルスのうち「M2蛋白」という種類の蛋白構造をもつA型インフルエンザウイルスのみで、B型やC型インフルエンザには効果がありません。
- 放出されたウイルスのRNAは細胞の核内に取り込まれ、ウイルス遺伝子が作られます。この過程を遺伝子の「複製」と言い、「RNAポリメラーゼ阻害薬」はこの複製を阻止します。
- 複製された遺伝子からできた新しいインフルエンザウイルスは、「ノイラミニダーゼ」という酵素の働きによって細胞の外へ出ます。これを「遊離」と言い、「ノイラミニダーゼ阻害薬」はこの遊離を阻止します。
抗インフルエンザウイルス薬の効果は、インフルエンザの症状が出始めてからの時間や病状により異なります。抗インフルエンザウイルス薬を適切な時期(発症から48時間以内)に使い始めると、発熱期間は通常1~2日ほど短縮され、体の外に出るウイルスの量も減少すると言われています。しかし、発症から48時間以降に使い始めた場合は、十分な効果が期待できません。インフルエンザが疑われる場合は早めに医療機関を受診し、処方された薬の用法、用量、期間(服用する日数)を守ることが大切です。
インフルエンザの予防
最後に、インフルエンザの予防について6つのポイントを紹介します。(1) ワクチンの接種
流行前のワクチンの接種が効果的ですが、体質などにより接種できない人もいるので、接種前に医療機関で相談しましょう。
(2) 正しい手洗い
手に付いたインフルエンザウイルスを取り除くためには、石けんを用いた手洗い、アルコールによる消毒が効果的です。
(3) 咳エチケット
知らないうちに周りの人へウイルスを飛ばしている場合があるので、普段から咳エチケットを守りましょう。
<咳エチケットとは?>
・咳やくしゃみを他の人に向けてしないこと
・咳やくしゃみが出る時はできるだけマスクをすること
・咳やくしゃみを手のひらで受け止めた時はすぐに手を洗うこと
(4) 体調管理
体の抵抗力を高めるために、十分な栄養と休息をとるなどして体調管理につとめましょう。
(5) 適切な湿度
空気が乾燥するとウイルスが長生きしやすくなります。また、乾燥により鼻やのどの粘膜が弱るため、適切な湿度(50~60%)を保つよう心がけましょう。
(6) 流行時期は人混みを避ける
流行時期に人混みを避けることでインフルエンザウイルスに触れる可能性が減り、感染の確率が低下します。
インフルエンザの治療方法は日々進化していますが、それに対抗するようにインフルエンザウイルスもまた進化します。感染を未然に防ぐためには、正しい知識を持ち、日常から予防を心がけることが大切です。
―参考資料―
厚生労働省 インフルエンザ(総合ページ)
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
抗インフルエンザウイルス薬の添付文書及びインタビューフォーム
ファビピラビル承認情報
一般社団法人 日本臨床検査薬協会ホームページ